総研ノート:世界の各地から

要マインドセット切り替え‐オランダにおける教職員のパート契約・臨時契約

 どの国の教育現場も、その国の文化、国民性が反映されているのは当然だが、オランダの事情を理解するには、日本の常識をまずちょっと隅に押しやることが肝心である。
 日本でオランダはワークシェアリングの国として知られているが、こちらでは「ワークシェアリング」という概念はなく、「パートタイム」で働くと言う。ところがオランダのパートは「正規」の採用であって、フルで働く人たちと給与、年金、待遇、研修、昇進などすべて同等なのが、日本とは大いに違うところである(当然給与は勤務時間数に応じて異なるが。)つまり使用者にとって、「パート」は決して安上がりにはならない労働形態なのだ。

 それならなぜパートかといえば、パートでなければ、特に女性は労働市場にまったく参加しないだろう、またパート就業であれば、勤務時間を使って個人の用事をする必要が減るはずであるから、かえって生産性は上るという観念があるのである。また高齢化社会となり、国民にできるだけ労働生活を長く続けてもらうためには、労働者が自分の勤務時間を設定できる方が続けられやすいだろうという将来に対する期待もあるようだ。
 第一次オイルショック後の失業対策として、既存の仕事をより多くの労働者で分かち合おうという連帯意識から生まれた、オランダのパート労働だったが、景気が回復し、人手が足りなくなっても、オランダの労働者はパートで働き続ける権利を主張し、今日に至っている。
 もともと第一オイルショック後の労働政策を確立した際、世界で有名になったいわゆる「オランダ・モデル」(オランダは国土の大部分が干拓地なので、オランダでは干拓地をさす「ポルダー・モデル」と呼ばれている)が用いられた。ポルダー・モデルとは三者の合意で政策を決定するコンセンサス・モデルのことだ。三者とは政府(実際には独立した立場の専門家)、組合(組織率に関わりなくすべての労働者の代表とみなされる)およびに使用者である。労働政策に関しては第二次世界大戦以来、三者が定期的に協議するSER(社会経済評議会)という形でこのスタンスが継続している。政府に対するSERの助言はほぼすべて採択されているので、実質的にはSERの決定がオランダの労働政策となる。
 なぜ組織率に関わりなく、労働組合が労働者全体の代表とみなされているかといえば、組合側が団体協約で獲得した条件はすべてそのセクターの労働者に適用されるということが一つ。もう一つは、組合間もコンセンサス・モデルであるからだ。つまり団体協約の交渉の場では、競争相手同士である複数の組合がそろって同じ場で、使用者と協議する。組合側内でコンセンサスを得ながら、使用者と交渉するのだ。これはSER内でも同じことである。というわけで、いくら組織率は下がろうとも、オランダでは組合は労働者全体の声なのだ。
 オランダの労働者は主にSERを通じて権利を守ってきたが、ことパートに関しては何も「守る」必要はなかった。というのも三者がそろってパートのメリットを認めているからだ。原則的に労働者が就業時間数を決められるという自主性による勤労意欲の増加、個人生活を犠牲にしないでよいという人間性、とにかくワークライフのバランスがとりやすくて合理的だからだ。管理者や裁判官のような専門職でも、パートで働く人たちが大勢いる。付け加えるならば、「パート法」は労働者が要求する勤務時間の短縮と増加の両方とも、使用者側にとって重要なデメリットを証明できない限り受け入れられなくてはならないという法律である。たとえば子育てを終えて、勤務日を増やしたい者にも適用される。
 中には高齢者社会に備えて、労働者は常にフルで働くべきだという説く者もいるが、これはあくまでもマイノリティーで、現実的でないとみなされている。フルタイム勤労しか認められないのであれば、労働者数は相当減るから、かえって逆効果であるというのが主流の見方だ。
 ちなみに早期退職もパートと同じ意図で同時期に導入され、同じように労働者に歓迎され、労働者不足となってからも早期退職者は続出した。けれど労働者側は「早期退職権」を守り続けることができず、当初の早期退職を促すための経済的メリットは最近なくなった。(新制度が施行される直前、早期退職者ブームがあったとのこと。)ただし自分自身で早期退職のために貯金をすることに関しては、税面で優遇措置ができた。
 
 教育は製造工場などとは異なり、パートとして働きやすい職場として知られていて、実際に就学前教育から高等教育まで、オランダの教職員の大多数がパートで働いている。子どもの休暇は親も休暇、子どもの授業が終る時間は親の勤務時間も終了ということで、親の手で育児がしやすいというのが教職の特色とされている。教職員の場合とは限らないが、母親が週3日、父親が週4日働き、各自フリーな日に子どもの面倒をみて、週2日のみ託児所に頼るというのが、就学前の子どもをもつ家族の間でよく見られるパターンである。
 フルタイム勤務の実際は、業界によって「フルタイム」の基準は異なるが、36時間~38時間が主である。オランダでは週40時間というのは、週40時間以上は働いていけないということ。そこにフレキシブルワークときているので、たとえば週4日で毎日9時間働いて「フル」勤務ということもよくある。簡単に言うと、オランダでパート就業とフル就業を区別する意味はまったくないということになる。
 
 次は臨採について。 
 教育界での臨時採用は増えてきているが、臨時採用も契約期間が限定されているということ以外、パートかフルの永続的な契約期間の勤務とまったく差がない。つまり使用者にとって臨時採用は、少なくとも給与の面でのメリットはないのだ。
 臨時採用以外の就職口がないので臨時採用で働いている教職員も、いることにはいる。けれど現在オランダはまだ教員不足なので、臨時採用の方が長期的な自由があってよいという、好んで臨時採用を選ぶ教員が多い。
 追加点。正規採用と臨時採用両方のタイプのパート勤務の場合、初等教育から高等教育まで、必要か好みに応じて、複数の学校で働く教員もけっこういる。
 結論。パート勤務も臨時契約勤務も、使用者側には節約にはならないので、経費削減は動機ではない。パート勤務は管理職・専門職も含めて働く側の希望であるということ。臨時契約であれば使用者側のコミットメントは短期間であるというフレキシビリティがあるが、このフレキシビリティは労働者側にとっても同じで、オランダではむしろ労働者がこのような柔軟性を求める傾向が強いということ。多少の所得は犠牲にしても、ワークライフバランスでライフを優先するのがオランダの国民性なのだ。
 組合員でなくても、組合が獲得した条件を享受できるのならば、なぜ組合員になるのか。学校の休暇はすべて教員の休暇でもあるのか。そのようなもろもろの疑問が出てくるかもしれないが、ページ数の関係で、今日はここまで。

シャボットあかね(通訳、オランダ在住)
                                

2009年3月30日