総研ノート:書評・図書紹介
【図書紹介】鈴木喜代春『子どもとともに 私の教育実践史』(教育新聞社、2009年7月)
ずしりと重い。800ページにわたる大書である。中身もゴツイのでは、と一瞬ひるむ。ところが、そうではない。いったんページをひらくと、人なつこさのにじむ読みやすい文体と具体的な場面がつづく内容にひきつけられて、どんどん読み進んでしまう。
著者の鈴木喜代春さんは、教員、児童文学者の二足のわらじを履いて長年たゆまずに歩きつづけられ、現在84歳。このご年齢でこの大著をものされる力強さに、まず驚かされる。青森と千葉の地で、生活綴り方を初めとする多彩な教育実践を重ね、ときに「注入教育、偏向教育」との非難をも浴びながら、たゆまずに学級文集を出しつづけた。やがて教職員組合書記長を引き受け、その後指導主事を経て、中学校小学校合わせて計四校の校長をつとめる。そればかりではない。児童文学者としても知られ、多くの作品を世に送り出している。どれほどの多さかというと、巻末の著作目録によれば、現在まで実に174冊を数えるのだ。驚くほどのエネルギーそして遂行力というほかはない。
こう書くと人は、屈強で精力的な外見の持ち主を思い浮かべるかもしれない。しかしわたしがかつて日教組の教育相談室の仕事をご一緒したことのある著者は、小柄かつ小声でにこにことやさしく、いつも一生懸命で謙虚な、「好々爺」(失礼お許しを)という印象である。「鈴木先生」の姿があると、みんななんだか安心してしまう、というような。
いま著書を拝見してあらためて思うことだが、この謙虚で一生懸命なお人柄が、子どもや親や同僚を安心させ、言いたいことが何でも言える信頼関係を巧まずして生み出してきたにちがいない。組合書記長として闘ったあとに指導主事・校長職へという展開は、狭量なわたしなどには正直わかりづらいところがあるが、そうした立場へのとらわれを越える人へのまっすぐな信頼と徹底した人間主義が、おそらく著者の信条なのだと思う。「まったくひどい先生」「月給返しなさい」などと、親たちは著者に向かって平気で言う。「お母さんたちから(文句を)言われて、しっかりしなくっちゃと言っている。おもしろい校長先生だ」と子どもたちも言う。しかし、ときに子どもの横柄さに腹をたて、バンバンと机をたたいて怒鳴りつけ、そのあとでしょんぼりと反省する。いま学校に失われたのは、そうした率直さや人への揺るがない愛情なのだと気づく。そして著者のその一生懸命さが、たくさんの児童文学を世に送り出す原動力ともなってきたにちがいない。
この膨大で温かい著書の目次を、以下に紹介しておく。日々子どもとかかわるところに身を置く教師をはじめ多くの読者を得て、安心感の失われたいまの世の中に、本書がひろがっていってほしい。
第1章 師範学校時代
第2章 敗戦・国民学校の教師
第3章 「6.3.3制」の新制中学校教師となる
第4章 6.3.3制小学校教師となる
第5章 「みつばちの子」の4年間
第6章 「むぎの子」の3年間
第7章 「小学校1年、2年」担任
第8章 長期研究生の一年間
第9章 最後の学級担任と教職員組合松戸支部役員
第10章 千葉県教職員組合松戸市支部の書記長の2年
第11章 松戸市教育委員会の「指導主事」「教育研究所長」の6年8カ月
第12章 松戸市立栗ケ沢中学校長の6年間
第13章 松戸市立松飛台小学校長の4年間
第14章 松戸市立第三中学校長の2年間
第15章 松戸市立小金小学校長、小金幼稚園長の2年間
第16章 退職後の25年間
小沢牧子(日本社会臨床学会運営委員)
2009年9月14日
