総研ノート:世界の各地から

オランダ教職員の生活実感:インターンコーチMarion Lansさんインタビュー

 マリオン・ランスさんは、22年間教壇に立った経験を持つ、47歳の基礎学校の「インターンコーチ」(IB: interne begeleidster 男性の場合はinterne begeleider)である。基礎学校とは、日本でいう幼稚園2年間と小学校6年間を組み合わせたオランダ初等教育の学校である。この基礎学校はオランダでは中都市とされるアルメスフォルト市の新興住宅地にあり、若い家族が集中していることから急成長を続けている。この学校の一番の問題は、急激な生徒数の増加に対応しながら、質を確保しなくてはならないということである。
 

 インターンコーチ(IB)とは、学校内部でのカウンセラー兼コーディネータのようなポジションで、教員資格を得た後さらに2年間の教育を受けてこの資格を得ることができる。4年前からマリオンさんは、特に「ケア」を必要とする生徒に関して、その教師や保護者をコーチしたり、さらに基礎学校卒業前に受ける学力テストを担当している。「ケア」が必要な生徒とは、失語症とかその他学習力に影響を及ばす医学的・社会的な問題を持つ生徒のことである。また教員がほかのIBと勤務中相談する場合、その教師のクラスを担当することもある。
 マリオンさんが勤務する学校は、オランダにしては大規模な基礎学校で、30クラスに分かれている約700名の生徒と約50名の教員がいる。マリオンさんも含めて、合計3名のインターンコーチが勤めている。
 
 マリオンさんの家族構成は、税務署員である夫と3人の息子で、この3人のうち2人はすでに大学生として家から出て暮らしている。
 自らの希望で、マリオンさんの勤務日数は週3日である。なぜ小さな子どもたちがいないのに3日のみかといえば、仕事は好きだけれど、死んだら持っていけないお金より、他のこともできる時間が欲しいからである。夫のポールさんはフルタイムで働いているが、税務署員のフルタイムは週36時間勤務で、ポールさんは毎日9時間働くので、金曜日は職場に行かなくてよい。そこで金曜日は夫婦だけの時間が持てる日となり、一緒に散歩にいったり、サイクリングをしたりする。
マリオンさんの方が夫より家事・買物をすることが多いが、それでも彼女が働く日は、夫婦のうち早く家に戻った者が夕食の支度をすることになっている。だいたい帰る時間は同じなので、場合によっては打ち合わせて、駅から一緒に自転車で帰宅することもある。ポールさんは電車で15分先のユトレヒト市で勤めているからだ。
 
 働く日、マリオンさんは朝6時15分に起床し、朝食を食べてから、7時15分頃家を出る。自転車で35分先の学校に到着するのが7時50分で、まずメールをチェックする。そして8時10分から8時30分まで、オランダではコーヒールームと呼ばれている職員室で、コーヒーを飲みながら教員やIBと打ち合わせをする。もし病欠の教員がいれば、どのような対応となっているかを確認する。
 授業が始まるのは8時半である。午前中15分の休憩時間があり、昼食時間は1時間。授業時間が終るのは3時、5時にはマリオンさんの勤務終了。だいたい5時45分までには家に戻れるが、遅い時は6時頃まで学校に残る。休憩時間中にも昼食時間にも、非公式な形で教員の相談に乗るので、実質的には半分くらいの休憩・食事時間しかない。
 
 休暇中学校は閉鎖される。ただし6週間の夏休みに関しては、教員もIBも、最初の1週間は整理をしたり事務を片付けるのに費やし、夏休み後新学期が始まる1週間前くらいから学校で準備をする。ポールさんもマリオンさんも、原則的に家では仕事をしない。
 生徒、教員、保護者と接触することならマリオンさんは好きだし、最近完了した「失語症プロトコール」のようなマニュアルを作成することも厭わない。ため息をつくのは事務量である。ある生徒が別のタイプの教育施設を必要としているかもしれないとなると、それに関してのさまざまな当局とのやりとりの書類は、辞書1冊分くらいの厚さになってしまう。それに30年前と比べて、教育者の社会的ステータスは下がったとも思う。親は教育者に対して、消費者・客のように振舞う傾向がある。
 
 とはいえ今マリオンさんは、2011年からオランダでスタートする予定のPassend Onderwijs「適切教育」(一定の教育方法によって教えるのではなく、生徒の個別ニーズに合わせた教育を行うこと)の準備に意欲を燃やしている。自分自身この新しいシステムについての教育・訓練を受けるかたわら、どのように学校の教員にそれをコーチしていくかが、彼女の課題となっている。

シャボットあかね(通訳、オランダ在住)

2009年4月27日