総研ノート:書評・図書紹介

【図書紹介】鎌倉孝夫『"擬制"経済下の人間・人間関係破壊 それをいかに克服するか』(長周新聞社、2008年6月)

0001.JPG 教育総研元副所長の鎌倉孝夫埼玉大学名誉教授が長周新聞に連載した論文をまとめた本書は、鎌倉理論を縦横に駆使して、"究極の擬制経済"を産み出している今日の新自由主義経済のすさまじい人間労働と生活の破壊を暴き出している。

 マスコミではさかんにアメリカのサブプライムローン問題が報道されたが、今一つ理解できなかったその構造的問題を鎌倉氏はみごとに分析している。なぜサブプライムローンが作られたのか、そこにしかけられた罠は何か、背景になにがあるのか、その世界経済に及ぼす影響はどの程度か、などを鋭く分析するとともに、この問題は「現代資本主義の重大な特徴を示すものなのである、それは一方で、資本の証券化=擬制資本化を示すものであるとともに、その発展基盤には著しい格差構造、そして貧困者の生活破壊がある」(本書35頁)と指摘する。

 また本書では、人間「労働」を破壊する労働者派遣事業の実態とそれを産み出してきた労働者保護法の全面撤廃の流れを詳しく押さえている。後者の契機をつくった1995年の日経連『新時代の「日本的経営」』の持つ犯罪性もえぐり出されている。数多く作り出された派遣労働者だけでなく、いわゆる正規労働者といわれる人びとも長時間労働に追い込まれるようになっている。
 そうだとすると、教職員の多忙化は定数改善ではない臨時教職員の増加によってもたらされているのではあるまいか。鎌倉氏はこの点については触れていないが、「教師の苛酷な状態―教育主体の危機」については詳しく触れている。また、教育基本法改悪後の最新の教育政策の動きも本書はフォローし批判している。

 本書を読み進めていくなかで、はっとさせられた点がある。それは「ワーク・ライフ・バランスという偽装」(92頁)という指摘である。どちらかといえば、プラスの評価をしがちなこのワーク・ライフ・バランスも日本経団連の「経営労働政策委員会報告」(2008年3月)で「派遣会社や派遣労働者を活用する資本家的企業にとっては労働者の使い捨てを粉飾し合理化するための偽装」に利用されるようになったようだ。耳障りのいい言葉には気をつけなければならないことを改めて学ぶこととなった。

 最後に鎌倉さんは「人間再生を求める」私たちの課題や問題点を本書で示している。
 そこでは労働者、勤労者が主人公だ、実体の担い手にふさわしい価値観・行動基準、何よりも国家を作り変えること、が展開されている。その内実については、ぜひ本書にお読みいただきたい。

嶺井正也(教育総研所長・専修大学教授)

2008年9月 1日