総研ノート:書評・図書紹介
【図書紹介】鎌倉孝夫『国家論の科学』(時潮社、2008年1月25日)
本研究所の元副所長であり、教育文化会議議員でもあった鎌倉孝夫埼玉大学名誉教授が国家論を正面にすえた本書を刊行された。「序」にあたる部分の「序にかえて」は、本研究所の季刊誌『教育と文化』第49号に掲載された「教育総研理論講座1 民衆の共同と国家」が当てられている。
構成は次の通り。
序にかえて
第一章 国家に「品格」はあるか
第二章 グローバリゼーションと国家
第三章 新自由主義と国家
第四章 「世界共和国」は以下に可能か
第五章 品格なき国家
第六章 科学としての国家論
[補論]
一 日本資本主義論争
二 書評
「序にかえて」では「国民」(民衆)と国家の区別と関係を明らかにしつつ、教育基本法改定で狙われている「国民」主権から「国家」主権への転換が論理的に批判されている。それは、改定教育基本法が国民主権を規定している日本国憲法に反していることを意味している。鎌倉理論の特徴の一つでもある、「人間が人間として生きる現実の根拠(実体)」を根底にすえた批判もここで展開されている。
第一章は藤原正彦の『国家の品格』を、第二章はネグリとハートの『帝国』を、第三章は新自由主義批判を展開している渡辺治の二つの論文を、第四章は柄谷行人の『世界共和国へ』をとりあげ、それにコメントする形で、国家論を深めるというアプローチがとられている。もとより、藤原の『国家の品格』に対しては徹底批判である。
『帝国』については、「グローバリゼーションの進展の下全世界的規模で『総資本』対『総労働』の階級対立が現実化しつつある」というとらえ方には賛意を示しつつも、グローバリゼーションのとらえ方、帝国主義と帝国との区別と関連、抵抗主体としてのマルチチュード認識など主要な点で問題があると指摘している。
ネグリとハートの論考に難解さを感じていただけに、その点を踏まえての問題点を指摘は大いに参考になったところである。
前二者に比べ、渡辺論文には好意的であり、それを補完するような立場での論考になっている。ハーヴェイの有名な『新自由主義』の監訳者である渡辺論を基本的には肯定しつつ、経済学の立場から補完的分析を行うとの立場である。
柄谷行人の議論については、鎌倉さんのもっとも得意とするマルクス経済原論に基づく根本的な批判を展開している。ただ、久しくその議論から離れてしまった筆者にはなかなかついていくのが困難である。
本来であれば、一番、読んで議論をしたいのは第六章である。ここに鎌倉国家論が集約されている。ここは図書紹介でとどめるのはもったいない。書評として、まともに格闘する必要があるところであるが、今回はその時間的余裕がなかった。
補論の一も同じである。講座派対労農派の議論に切り込んでおり、非常に興味深い。とく、明治中期に「近代公教育制度」が成立したと考えている筆書としては、公教育論を踏まえながらかかわっていきたいというと感じた。だが、まだその段階でない。図書紹介として、この補論の面白さと重要さを指摘しておきたい。
最後に、鎌倉論を読み解くには、「実体」なる概念をかなり理解しておかなければならないことを改めで感じた。
思考を揺さぶられるだけでなく、現実にどうしていくのかを突きつけられる本書は魅力にあふれている。
嶺井正也(教育総研所長・専修大学教授)
2008年5月 7日
