総研ノート:書評・図書紹介
柳田国男─社会変革と教育思想
●著者:福井直秀
●発行:岩田書院
●体裁:A5判/317ページ
●定価:6900円(+税)
福井さんによると「柳田にとって、日本社会を変革することは、民衆が自らの力で生きてきけるような「共同性」を作りだすことを意味していた。ここに、教育が社会建設の基礎を担う。<中略>柳田改革構想の中に、教育は終始中心的な位置を占めていた。農政論の中でも、農民の自立を学校教育が推進していくという構想が語られていた」という。
これまでいくつか、柳田国男の教育論についての論考がある。庄司和晃『柳田国男と教育』、『柳田民俗学の子ども観』、谷川彰英『柳田国男 教育論の発生と継承』、そして伊藤『郷土教育運動の研究』、関口敏美『柳田国男における「学問」の展開と教育観の形成』、村井紀『南島イデオロギーの発生』といった先行研究を福井さんは批判的に検討し、自らの論考の特徴を二つあげている。
一つは、「1920年代普選運動期の政治評論を柳田の政治思想・改革構想の確立と見る点にある。柳田にとって、政治への民衆の登場が新しい共同体の構築を可能にさせると思えたのである。たとえば、国家は社会教育に口出しするな、という民衆に信を置いた主張、さらには、民衆は歴史の中に現在的な問題を解決するための根拠を求めるという積極的な営為をなさなければならないという見解も、この期の民衆の政治参加を抜きにしては考えられない。」とする。
二つは、「柳田の内面に分け入ってその論理をたどり、時にはその不十分性を明らかにしたことである。柳田の可能性を探るには、庄司らによる顕彰ではなく、また村井流の外在的批判でもなく、まさに内在的な批判」を果たしている点である。
章立ては次の通り。
第一章 農政官時代の農業教育論
第二章 普通選挙実現と柳田国男の政治評論
第三章 柳田国男にとっての近代
第四章 柳田国男のアジア認識
第五章 柳田国男の学校教育論
第六章 柳田国男の国語教育論
第七章 柳田国男の郷土教育論
第八章 柳田国男の社会科教育論
個人的にはまず、第七章と八章を読んでみたい。いうまでもなく、今回の教育基本法「改悪」により、「郷土を愛する態度の育成」が教育目的に入り込んできた結果、郷土教育が浮上してくる可能性が大であるからである。また、戦後成立した社会科教育の趣旨が限りなくゆがめられていく状況になりつつあるからである。
福井さんの分析の内実とそれについての筆者の見解は、別の機会にしたい。福井さんは本書を刊行したあと、今日の教育改革論議に関する論考を準備中とのこと。早い刊行を期待する。
嶺井正也
2007年9月30日
