総研ノート:書評・図書紹介

公教育制度における教員管理規範の創出

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「品行」規範に着目して
●著者:尾崎公子
●発行:学術書院
●体裁:A5判/293ページ
●定価:4800円(+税)

「あるべき振る舞い」を意味する「品行」という規範に着目して日本の近代公教育制度確立期(1890年代から1900年代)の教員管理政策を分析した尾崎さんは、第III部終章で本書の内容を要約している。

本書は、「品行」を切り口にして、国家的規範を担う教員像が、近代解明派、儒教派、民権派、地方名望家の思惑、利害が相克し、重層的、複合的、相互浸透的な対抗関係のなかで形成されていく過程を明らかにしようと試みた。「品行」という儒学と近代市民社会のモラルを同時にうつしだして、振る舞いにランクをつける行政施策を引き出し、「品行」正しき教員像とともに、「不品行」に対する監視的眼差しを生み出していった。政府は、その「品行」を前面に出すことによって、教員管理政策におけるヘゲモニーを確立していったのである。

「品行」を前面に押し出す政府の政策的意図は、不品行を理由として民権は教員を排除、弾圧する目的に向けられていく。だが、民権派の教員観にも、結果的に政府の意図を補充してしまう位相があった。ここに、政策と運動との相関関係のうちに「品行」が体制規範として成立し、社会的に受容されていくことになる契機を見出すことができる。
章立てをみておこう。

第I部 「品行」概念の論究
 第1章 「品行」の語源
 第2章 「品行」用語の社会的受容と普及
 第3章 「品行」規範—国家と個人の結節
 第4章 「品行」を主題とする教育論の登場
第II部 学制期から教育令期までの教員管理政策
      ─「品行」規範に着目して
 第1章 教育行政機構と教員身分法制の整備
 第2章 資格の制度化と陟黜(ちゅっちゃく)体制の整備
 第3章 教育の自由化政策と教員管理
 第4章 「品行」を基定とする教員管理法制の制定過程
      ─1881年以前の動向
 第5章「品行」を基定とする教員管理法制の制定過程
      ─1881年以後の動向
 第6章 教員管理をめぐる行政機構の再編
第III部 教員管理法制の運用と実態
 第1章 地方における教員管理政策—長野県の事例
 第2章 民権派の教員観—政策・運動間の相互規制と相互補完の位相
 第3章 民権派教員の処分事例をめぐる考察?
      ─<処分─裁判>の観点から
 第4章 民権派教委の処分事例をめぐる考察?
  ─近代国民国家のエージェント形成とジェンダー秩序形成の結節点
 終 章 規範生成に関わる教員政策研究とその課題

尾崎さんはまた終章で、今日の教員政策のなかで中心的位置をしめている「適格性を欠く」教員問題を考える上でも、こうした教員管理を目的として規範形成に関わる政策史的分析が要請されているとして、本研究の現代的意義について触れている。教員免許更新制導入問題などへのアプローチも含め、尾崎さんの新たな研究を望みたい。

嶺井正也

2007年9月30日