総研ノート:コラム

不登校の現在(いま)

8 月10日、文部科学省から学校基本調査が発表されました。不登校の小・中学生は12万6764人になり、5年ぶりに増加に転じたと報じられています。2002年に文部科学省は不登校に対し積極的に取組む方針を打ち出し、この4年間微減を続けてきました。その背景には、大阪府や新潟市などが行った不登校の数を3年間で半減させるといった取組みが全国的にありました。傷ついた生身の子どもを統計上の数減らしとして扱う対策です。

昨秋、次々に命を断っていった子どもたちの多くは、いじめを訴え、学校に命の居場所がないことを社会に知らしめました。そして不登校の大きな原因の1つにいじめがあげられています。文部行政が強化した学校復帰対策が、限界点にきていることが読みとれる今年度の学校基本調査です。中でも中学生の不登校は10万2940人で、生徒総数に占める割合は2.86%となり、過去最高の数になりました。

四国のある県の先生からこんなお便りをいただきました。「今年1月末に市教育委員会は各中学校の校長を呼びつけて、欠席日数が25〜29日の子どもの欠席総数が30日を越えないように注意をしています。教育委員会が成果主義に走るのは仕方がないことかもしれませんが、これによって『学校に行けない子どもたち』が教師のよけいなお世話によって『安心してゆっくり休めない状況』に追いこまれはしないか危惧しています。」

不登校とは1年間に断続または継続して30 日以上欠席した子どもたちを指します。文部科学省に数を報告しなければならない学年末を控え、中学校長を集めて欠席を29日以内に止めるよう対応を迫っているのです。見えざる手が二重三重に不登校の子どもと家庭におそいかかっていくことがわかります。

文部科学省は不登校の増加に対し、各県から「対応が十分でなかった」「家庭教育力の低下」「人間関係を不得手とする者の増加」などの声がよせられたとの見解を示しています。他方、「指導の結果、登校するようになった児童生徒」については、「とくに効果があった学校の措置」として一番多く選ばれたのが「電話をかける」「家庭訪問」などでした。文部省が登校拒否に取組むようになった40年以上前から今日まで、家庭訪問と電話が最も効果のあった方法だとの報告が繰り返されてきました。1990年代以降、不登校対策に本格的に取組み、スクールカウンセラーの導入や適用指導教室の設置など膨大な予算を投入して10数年を経ているのに、今年もまた、とくに効果があったとあげられた取組みは、素朴でシンプルな家庭訪問と電話です。この2つの取組みはほとんどの場合、クラス担任の役割です。文部科学省が多額の公費を投入した各種専門的手法が、不登校対策には大して役に立っていないと現場が認めているとも受けとれる皮肉な報告です。

ところが、最も効果がある方法とされる先生の家庭訪問や電話による登校催促は、不登校を始め家庭を唯一の居場所にしている子どもたちにとって、何よりもの苦痛とストレスをもたらしています。

8月末に登校拒否を考える全国ネットワークが主催する第18回「登校拒否を考える夏の全国合宿」が静岡県の伊東市でありました。全国から親や子どもたち 640人以上が参加した合宿で、私は「不登校って何?」という分科会の講師を担当しました。その分科会で次のような発言がありました。「高校1年の息子が『もう学校に行きたくない。行けないのではなく、行かない』と強く主張して学校を休み始めました。学校からはひっきりなしに電話がかかってきました。電話があると息子が荒れるので、『子どもが荒れるから、気持ちが落ちつくまで電話を控えてほしい』と断りました。ところが受話器をおいた途端に今度は子どもの携帯のベルが鳴り、延々30分近く話が始まったのです。先生からの電話を切った後に子どもが怒って荒れることがくり返された挙句、本人が電話に出なくなったところ『話ができないならメールでいいですか』と言ってメールが送られてきました。」

断っても断っても電話をかけてくる言葉の通じない関係に、親子ともども困り果てていました。こうした学校の熱心な登校刺激が、子どもを追いつめ、家庭での居場所を侵害し、時には親子の対立を招きます。文部科学省や各地の教育委員会が効果的だと認識している学校からの電話による働きかけが、こんな事態を生みだしているのです。確かにあまりのしつこさに音を上げて仕方なく学校へ足を運んだという子どもの声を聞くことがあります。しかし、いじめや教員の不適切な教育手法、管理的な生活指導、過労をもたらす部活など、子どもが不登校になる原因が学校にある限り、子どもは再び登校を拒否します。

なぜ子どもが登校を拒否し不登校を続けるのか、原因や理由を真摯に受けとめ、学校を変える努力や取組みをしない限り、不登校の数減らしにどんなに力を尽くしても、問題の本質は解決しないでしょう。

運営委員 内田良子

2007年8月30日