総研ノート:書評・図書紹介
競争やめたら学力世界一
フィンランド教育の成功
●著者:福田誠治
●発行:朝日新聞社
●体裁:四六判/262ページ(朝日選書)
●定価:1200円(+税)
著者の『競争しなくても世界一─フィンランドの教育』(アドバンテージサーバー、2005年6月)に続く本書は、より詳しく説得力のあるものとなった。 Amazonで検索したら、読者の評価は極めて高い。一般向けであり読みやすいが、レベルは高いので、この評価は当然だろう。
「2004年、大きな国際学力調査PISAの成績が世界中で話題となった。PISAは、OECDが主宰するもので、社会で生きるための子どもたちの総合的な思考力を測ることを目的とする。この調査でダントツの世界一位となったのがフィンランドだ。友達同士で教え合う。好きなところに座る。ソファーで休む。編物をする……。このフィンランドの授業風景に、いったいどんな秘密が隠されているのだろうか。自ら学んでいく子どもたちを、フィンランド教育はどうやって育てたのだろうか。「学力」が国や経済を支えるフィンランドの成功の秘訣を、現地の学校を取材し、豊富なデータをもとに探る。学力低下が叫ばれる日本の教育を根本から問い直し、将来に求められている世界標準の学力とは何かを提言する」
(裏表紙の内容紹介より)
「学力」「学力」といい、あるいは「学力低下」という叫びが文部科学省の役人や学者のみならず親からも叫ばれている今日、一体何を騒いでいるのかと本書を読み解いてほしい。PISAは、社会で生きるための子どもたちの総合的な思考力を測るものであるが、その具体的な出題例が4問掲載されており、どういう学力を測っているのかのイメージがつかめる。日本でいま考えられている学力とは明らかに違うのだ。
こうした学力を測るPISAで世界一になったフィンランドの教育実情が読む進むうちに解き明かされる。強制ではなく、教員も自由、競争もない。授業時間も少ない。それで「世界一」。この話をすると大抵の人が驚く。多くの人の「学力をあげる方法としての常識」とは正反対だからである。だが、「学ぶ」という人間の本質的な資質は、フィンランドのような環境におかれてこそ開花するということではないか。一人ひとりの子どもの姿をみるとそのことが見えてくるはずである。「教育はいやがるものに強制するものではない」「自分で学べ、うまく学べないときには援助する」というフィンランドの教育は、子どもの姿を見ると実は理に適っている。そうした子どもたちは、教えあい、学びあうという関係になっていく。
翻って日本はどうだろうか。競争主義をさらに進め、さらに格差を広げていく。PISAの結果をみると日本の問題は、学力格差の広がり、それも下位層の増大である。全体的に批判力も弱い。教育基本法「改正」はこうしたことに拍車をかけるだろう。
このままでは、ほんの一部の子どものエリート化だけになる。それでよいのか。それに、それで社会が成り立つのか。経済界も事の本質を見失っているのではないだろうか。こうしたことをしみじみと考えさせる本である。
石井小夜子(運営委員)
2006年6月30日
