総研ノート:世界の各地から
フランスの障害児教育制度改革 「原則統合」を法制化
2005年2月11日付法律(適用は2006年1月から)により、フランスの障害児教育制度は「原則統合」に向けて動き出すことになった。これまで知育中心の学校教育をその特徴とし、実質上、障害児の分離・別学が明確であった同国は、大きな制度上の転換点を迎えることになった。
ではどのような変革が行われることになるのか。まずこの法の趣旨(諸通達によって確認されている)を確認し、具体的な条文の改正について若干の紹介をしたい。
法律の趣旨
この法律は、権利と機会の平等、障害者の参加と市民性のための法律であるとされ、障害のある子ども・青少年に対して公教育へのアクセスが権利であることを確認し、すべての生徒の教育水準の向上には、そのニーズに合った対応を受けられないことで学業成功に至ることができない生徒に特別な注意を払うことが必要であるとしている。そして、学校への子どもの入学問題についての親の要求に応えることが不可欠であり、地域の学校への障害児の入学は権利であることを明確にした。
なお、市民教育の充実も強調され、そのひとつの方法として、障害者を尊重し、彼らの社会への統合を促進するために、学校は、障害者施設と連携して交流していかなければならないとされている。
具体的改革
その趣旨に則り、原則として、生徒の学校教育は、その居住地にもっとも近い学校で行われることが確認された。しかも、いわゆる「専門家」による検査を受けることなしにその入学を校長に要求することができる。
もちろん、障害の種類や程度によっては、他の教育施設に入ることも制度上認められているが、その際にも、保護者の合意が前提であり、また、その子の学業遂行に「流動性」をもたせることが重要であるとされている。つまり、必要に応じて、地域の「通常の」学校に途中から入っていくことも保障されている。
このような改革にともない学校側にも対応が求められる。そのときの基本的考え方は、障害のある生徒の学校教育を特別な課題のようにみなすのではなく、その援助は、教育チーム(=学校全体)に帰されるものであり、生徒にもたらされる個人的な援助として考えてはならない、というものである。つまり、学校全体の能力向上が求められているのであり、そのための人的配置、教員養成・研修の見直し(教員が障害児の受け入れおよび教育にかかわる特別な教育を受ける)も提案され、予算措置もされることになった。けっして学校側の条件に合った子どものみを受け入れようとしているのではない。
なお、障害児の教育に関しては個別教育計画が作成されることになるが、その作成には保護者も加わることになる。
また、試験等で特別な条件が求められる場合には、時間の延長や介助がつくことも可能である。
条文改正の具体例
象徴的なものを若干紹介する。まず、原則に関わる部分では、次のように、下線部が挿入された。(・・・・は中略を示す。)
「・・・・教育は、社会的に不利な地域および人口の少ない地域での学校に通う生徒の状況を補強すること、そして、その原因を問わず、困難な状況にある、また健康面で特別な状態にある生徒に対して個別の援助活動の恩恵を受けられるようにすることを目的とする。」
「・・・・機会均等の促進のために、一人一人が、能力に応じて、またその特別なニーズに応じて、異なる型あるいは水準の学校教育に接近できるような措置がとられる。」
次に具体的な施策に関わる部分では、条文の全文書き換えが多くなっている。そのひとつとして、たとえば、次のようなものがある。(下線部に注目)
〈受け入れの原則〉
旧「障害児は、義務教育の対象である。彼らは義務教育を通常の学校で受けるか、それができなければ、県特殊教育委員会により各人の特別なニーズ(besoins particuliers)に応じて決定された特殊教育を受けることでこの義務を満たす。」
新「・・・・公教育は、障害のある、あるいは健康面での問題を抱えている子ども、青少年および成人に対して、学校教育、職業教育あるいは高等教育を保障する。その権限内で、国は障害のある子ども、青少年および成人が普通の環境において就学するのに必要な財政的、人的手段を講ずる。障害のある、あるいは健康面での問題を抱えているすべての子どもおよび青少年は、その住居にもっとも近い学校、あるいは[その他の教育施設]に登録される。」
ここでは、旧規定の「それができなければ」という発想が根本的に変更されている。つまり、それが権利であるのだから、原則として地域の学校への入学が「できない」ということはあってはならないのである。ただし、さまざまな事情・理由によっては保護者の承諾を得て、その他の施設に登録するということもある。
〈統合の具体的推進〉
旧「障害児の統合教育は促進される。教育機関および治療・保健機関は、これに協力する。」
新「よりふさわしい教育を保障するために、障害のある子ども、青少年、成人は、その能力、ニーズ、取られている措置についての評価を受ける権利がある。・・・・その評価結果に応じて、各人にそして家族に、通常の学校環境における教育を促進するのに必要な個別教育計画が提供される。」
ここでも、障害児の教育があくまでも「通常の学校」において展開されることが前提とされている。
〈聾の子どもへの対応〉(条文新設)
「聾の子どもの教育および学業の遂行においては、手話とフランス語とを共に用いる方法とフランス語を用いる方法とのどちらを選択するかは、権利である。・・・・」
教育の具体的ありようが権利として語られていることに、あらためて着目すべきであろう。
以上、その概略ではあるが、フランスでの「原則統合」に向けた改革を紹介した。その本格的実施は今年9月の新学年からである。具体的にどのような動きになるのか、注目しなければならない。
なお、このような改革は、急に生じたわけではなく、少なくとも目指すべき理念としては、1989年の教育改革(ジョスパン法)を契機として、いくつかの施策や教育大臣の発言で明確化されてはいた。そのような助走期間があり、今回の法律改正という本格実施となったのである。ただ、印象としては一挙に進んだという感覚を覚える。それがどのような要因・背景によるのかは今後明らかにしていきたい。
池田賢市(教育総研運営委員、中央大学)
2006年4月30日
