活動報告:コメント・アピール

与党教育基本法改正に関する協議会
「教育基本法に盛り込むべき項目と内容について(最終報告)」

その内容と問題点
最終報告は、2004年6月16日の中間報告への批判を意識し、多少文言・表現は異なっているが、基本的には同じものである。

最終報告は、「教育の目的」(現行第1条)から、「個人の価値をたっとび」が抜けていることに象徴されているように、人間の尊厳よりも国家の立場・利益を優先させる教育の推進を企図するものである。平和と人権の価値にもとづく教育が今日、ますます強く求められている状況を考えると、これを容認することはとてもできない。

「教育の目標」として、あらたに、国家が国民に求める徳目を教育目標として盛り込もうとしていることは、人権の基底をなす思想・良心の自由を尊重するという観点からみて憲法上、問題をはらんでいる。

個別の教育目標のなかで、中教審では盛り込まれていた「国を愛する心」について、「我が国と郷土を愛し」とされたが、心の自由を保障する、という点からも、また、国家を主体にする「国家中心の発想」であり、憲法上、さらに歴史の教訓に照らして望ましいことではない。

教育の目標のなかで、「男女の平等」が示される反面、中教審答申・中間報告と同様に「男女共学」が削除されているのも大きな問題である。男女の特性を強調する方向性が見え隠れしており、女性差別の容認することにつながる。

教育の機会均等に触れたところでは、「障害」のある者について触れられているが、「障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育が受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない」とされ、分離教育を固定化させかねないものになっている。

義務教育年限も法定されず、現行より後退させる余地を残すものである。

新たな項目として家庭教育が示され、その役割・目標も法定されているが、そもそも国家が法律で家庭教育に介入することに疑義がある。そればかりか、子育ての責任だけが強調され、子どもの権利条約でしめされた、子どもの権利を守るための親の権利については何ら触れてない。

さらに教員については「全体の奉仕者」が示されてない。その一方で教育の「崇高な使命の自覚」を求めている。「崇高さ」の強調は、戦前の聖職者教師を彷彿とさせる。また、学校教育の部分で、「教育を受ける者が、学校生活を営む上で必要な規律を重んずるとともに、自ら進んで学習に取り組む意欲を高めることを重視して行われなければならない」としたことは問題である。これは、教育する側の心構えを規定するものであり、この性格になじまない項目であるばかりか、法の性質を変えてしまうものであるという批判を受けた、中間報告の学習者側に対し「規律を守り、真摯に学習する態度」を回避するものである。そもそも「学校の規律」の中には憲法上問題があるものも多数あり、このような条項を入れることは憲法上も疑義がある。しかも、子どもには強制しないとした「日の丸・君が代」がいまや教職員の処分を通して強制している事態をもたらすおそれがある。

最後に第10条については、中間報告と表現は異なったが内容的にはまったく同じである。中間報告は、現行第1項の主語が「教育」となっているのに対し、「教育行政」になり、「教育行政は不当な支配に服することなく」と変えられていた。最終報告は、その批判をかわすかのように、「教育」はとなっているが、現行法にある「国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」はなくなり、すべて、教育行政の役割として規定されている。結局第10条第1項の「主語」は教育行政であり、教育行政は「不当な支配に服することなく」として教育行政以外(教育行政を批判する組合や市民等)の「不当な支配」を規制するものとなっている。

だが、そもそも現行法10条は、戦前において教育行政による教育への不当な支配があったことを反省し、その懸念を払拭するために規定されたものであり、教育基本法の理念の根幹を守るための条項である。最終報告は、現行法と発想をまったく逆転させてしまうものである。さらに、教育行政が法令に基づいてする行為も不当な支配になりうるとするのが最高裁判決(1976年旭川学テ最高裁大法廷)である。だが、最終報告は、「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきもの」として、教育行政は、法律さえあれば、どのようなことも可能とするものであって(仮に、教育基本法に「愛国心」が入らなくても他の法律で定めれば可能となる)、教育基本法の根幹を否定し、現行の教育基本法とはまったく異なるものとなる。

最終報告は、基本的に中教審答申の趣旨を継承し、「大競争時代」との認識に立って、国家主義的方向と能力主義的方向とを組み合わせた国家主導の教育を押しすすめようとする内容となっており、同報告どおりに現行法が改定された場合、教育上、良心の自由を無視した「愛国心」の押し付けや選別の強化・格差の拡大など、さまざまな問題の発生が予想される。わたしたちは、子どもたちの幸福のために平和・人権・民主主義の教育が必要であると考える立場から、最終報告の内容に対して「ノー」の見解を表明するものである。

2006年4月17日 運営委員会

2006年4月13日